menu

事業概要

本課題では、京都大学を拠点とした日本が、英国、フランス、ベルギー、中国の4大学・研究所と国際交流拠点をし、特に機能物質としての応用で顕著な成果が認められる酸水素化物、酸フッ素化物を重点対象として共同研究を推進するとともに、他の欧米、アジア、オセアニア地域ととも新たなネットワークを構築します。

1.共同研究

複合アニオン化合物の開発では、合成・構造解析・物性測定・理論計算が有機的に連携しながら研究を遂行することが肝要です。日本側の研究者は、本研究課題を他国と密接に協力して推進するため陰山新学術およびCRESTで活躍する研究者を中心に、厳選したメンバーから構成されています。

オックスフォード(英国;科学、物理化学)は、酸水素化物などのトポケミカル合成や、超伝導などの物理機能開発を担う。オックスフォードに隣接する中性子散乱施設と放射光施設と、アントワープ大学(ベルギー)が誇る世界随一の電子顕微鏡施設(EMATセンター)と連携することにより、従来困難だった複合アニオン特有な構造問題の解決が可能になります。

昨年中国に開設されたノーベル化学賞受賞のRoald Hoffmannの名を冠したホフマン研究所における分子軌道に根ざした理論計算は複合アニオン系の理解と予測に必須です。また、取扱いが困難なフッ素化学を得意とするボルドー大学(フランス)は、長年、交流のある京大と酸フッ化物の開発に挑みます。日本側研究者は、様々な高圧合成法や、(光)触媒や電池など化学機能の専門家から構成されており、5拠点を基点にしてダイナミックな研究が可能です。

2.セミナー

本課題では、年に一回オックスフォード、京都、アントワープ、東京、ボルドーでシニア・中堅研究者と若手研究者、学生が集結してワークショップ(口頭、ポスター発表)を開催し、最新の研究成果を発表するほか、”陰山新学術方式”を採用し、非公開のデータを含めて進捗状況や新しいアイディアを共有します。併せて、シニア・中堅研究者がレクチャー・セミナーツアーを幾つかの大学・研究所を回って複合アニオンの最先端を紹介し、新たなネットワークを構築するとともに、新たな研究シーズへとつなげます。プロジェクトの2年目と4年目には若手スクールを併催し、シニア研究者が、若手研究者や学生に対して、複合アニオン科学に関わる講義を行い、次世代を担う研究者を育成します。2020年のキックオフ会議はオンライン開催することが決定しています。

3.研究者交流

各拠点の研究者は、複合アニオン研究を遂行する上で欠かせない。独自の設備、技術、経験を保有しているため、有機的な交流、連動によって、分野間の壁をとりはらい、研究を大きく飛躍させ、将来の産業応用につなげることができます。有機的連携の加速に重要となるのが若手研究者や学生の短期・長期の交換留学です。これにより若手研究者が新しい専門知識・技術を獲得することはもちろん、自由な発想で研究を立案・実践し、また、若手自らのネットワークを形成することができます。

以上の取り組みを通じて、複合アニオン材料の広い国際コミュニティを確立し、次世代の複合アニオンリーダーとなる人材の育成にもつなげます。このような若手を主体とした研究者間の積極かつ自在な交流は、斬新な手法開発や、予想外の発見(セレンディピティ)をもたらすことが期待できます。

4.研究成果

「複合アニオン」新学術、および陰山CRESTでの活動を通じて多くの画期的成果が出てきており、現時点での我々の立ち位置は良好と言えます。本プログラムでは、パートナーとなる英国、フランス、ベルギー、中国の4拠点機関の研究者と有機的に連携することで、新しい複合アニオン化合物の合成と合成手法の開拓、複合アニオン化合物の解析技術の開発と確立、アニオンならではの革新的な化学・物理機能を発掘することで、複合アニオン化合物による無機材料のフロンティアを開拓します。

複合アニオン化合物の殆どは、制御された条件の下で生み出される人工化合物であり、地球上にありふれた形で存在する酸化物をはじめとする単アニオン系とは全く異なります。そのため複合アニオン化合物の化学は鉱物学を基礎として発展してきた従来の結晶学、セラミック科学の延長線上にはなく、未開拓な領域が数多く存在し、基礎学理も確立されていません。しかし、このことは、複合アニオン化合物の研究を通じて未だ見ぬ全く新しい現象が発見される可能性が高いことの裏返しでもあります。

本研究で複合アニオン化合物の基礎学理を確立することで、将来の実用性へと繋がる材料の設計概念、方法論も確立することができます。

具体的なターゲットとしては、まず物質合成と解析の観点から、無機合成化学の長い歴史においても未だ達成されていない「複合アニオン化合物の物質設計」、「アニオン組成、配位(秩序・無秩序、cis-trans等)の完全制御」の実現、そして「各種合成法の融合などの学際的手法を駆使した新たな合成法」の確立を目指します。

本プログラムで集中して取り組む、「酸素水素化物」、「酸フッ化物」、「拡張複合アニオン系」のほか、従来の物質系や結晶構造の範疇に収まらない特異物質が次々と合成されることが期待できます。複合アニオンの化合物の特徴として、酸化物などの単アニオン化合物にはない特異な金属-アニオン配位構造があり、これは”機能の宝庫”と呼ばれるペロブスカイト酸化物を超える高い機能創発のポテンシャルを秘めます。

複合アニオンの特異な配位環境が生み出す新機能・物性の出口として、(光)触媒や電池分野での革新的な化学機能性を、新規トポロジカル現象、巨大誘電性、高温超電導、超巨大磁気抵抗などの革新的物理機能性を、異種アニオンブロックの機能を足し合わせたマルチ機能物質や創発機能物質の開発に取り組みます。